10. 結 論

10. 結論
 はじめに,強震計の記録器の部分について行なった検定の結果明らかにされた事項を示す。

(1) 記録紙送りの立上り
 SMAC-B2強震計では,記録紙送り装置が始動してから一定速度に達するまでに約2秒かかる。立上りの特性も,検定した2台の強震計でほぼ一致し,立上りにおける記録紙送りの速度は,経過時間の2次関数でほぼ近似できる。
 ERS強震計では,波形が記録され始めた時には,既に一定速度に達している。

(2) SMAC-B2強震計のタイマーの精度
 SMAC-B2強震計のタイマー精度は,平均パルス時間間隔の仕様(1パルス/秒)からのずれがおおむね±1%以下,変動係数は0.5%以下の精度である。

(3) 記録紙送りのむら
 SMAC-B2強震計の記録紙送りむらは,記録波形の時間変動に換算すれば,1秒ごとに,±0.01秒(標準偏差)以下の変動がある。
 ERS-Cの強震計の記録紙の送りのむらは,記録波形の時間変動に換算すれば,0.1秒ごとに,±0.007秒(標準偏差)以下の変動がある。
 これらの送りむらは,仕様の記録紙の送り速度で記録された波形のタイムマークを,量子化の単位が0.1mmの数字化装置で読み取って補正しても,その効果はあまり期待できない程度に小さい。
 次に,数字化におけるトレースの精度についての検討結果を示す。

(4) トレースの精度
 振動数ごとに見た誤差に対する波形の大きさの比は,波形に含まれる成分が優勢であるほど大きい。この意味において,トレースにおいて混入する誤差は,ホワイトノイズと見なすことができる。  誤差の大きさは,SMAC-B2強震計の記録の場合1〜2(gal)程度,ERS強震計の記録の場合,強震計の感度をp(gal/mm)とすれば,0.03p〜0.3p(gal)程度であるが数字化する波形によって多少変動がある。
 次に,本論文で提案した一連の補正方法のうちで,これまでに提案された補正方法と比べて,特徴のあると思われる補正方法を示す。

(5) 区分的ゼロ線補正
 数字化のために分割した区間ごとのドリフトによって発生するフィルタの応答を補正するため,フィルタをかける前に,区間ごとの重みつき平均値をゼロとするように補正する。

(6) フィルタリング
 積分に伴なって使用するフィルタとして,地震波ごとに定まるパラメタを持ったフィルタと,気象庁の一倍地震計のシュミレーションに基づくフィルタとの,2種類のフィルタを採用する。  採用したフィルタの形は,これまで提案されてきた各種のフィルタの形の比較検討に基づいて定めてある。
 最後に,得られた補正値を利用する上で,以下の点に特に注意すべきと考える。

(7) 補正値の利用上の注意
 補正値は,フィルタリングによって制限された振動数の範囲内においては,おおむね信頼できる精度を持つが,これ以外の振動数の範囲においては,その精度は必ずしも保証されない。


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