2. 強震計
2.1 強震計の概要
港湾地域強震観測では、大きく分けて２つの型式の強震計が使われている。一つは、SMAC-B2強震計とよばれ、機械的な機構を主体とした強震計であり、もう一つは、ERS強震計と呼ばれ、電磁気的な機構を主体とした強震計である。現在、観測に用いられている強震計は69台あるが、このうち51台がSMAC-B2強震計で、残りの18台がERS強震計である。
これらの強震計について、記録波形に与える影響を検討するために必要な事項を中心として説明する。
2.2 SMAC-B2強震計
(1) 概要
SMAC-B2強震計は、機械的な機構を主体とした強震計で、上下水平あわせて3成分の加速度を観測する。スタータ、振子、記録装置などすべての部分が一つの箱の中におさめられている。
(2) 基礎
強震計を設置する場合、岩盤上に直接に強震計を固定するような場合以外には、何らかの基礎が必要となる。基礎としては、観測の対象とする加速度ができるだけ忠実に観測できるような形状のものが望ましいが、どのような形状のものが最適であるかは現在のところ明らかではない。しかし、同一形状の基礎を用いれば、基礎による記録波形への影響が似たものとなり、記録の相互比較が容易となると考えられる。そこで港湾地域強震観測では、SMAC-B2強震計の基礎として、図-2.1のようなコンクリート製の基礎が統一的に使われている。中央部分の空洞は、基礎の見掛けの単位体積重量を地盤の単位体積重量と合わせるために設けてある。ただし、特に軟弱な地盤や液状化の予想される地点、例えば、八戸-S地点や新潟-S地点の場合には図-2.1に示す基礎に杭を併用している。
強震計は、観測室の中に設置される。観測室の構造としては、鉄筋コンクリート製、またはコンクリートブロック製のものが多い。強震計の基礎は、小屋の基礎や床とは独立している。
最後に、基礎と地盤との相互作用に影響を与える要素として、強震計自身の重量と形状についてふれておく。重量は100kgであり、形状は高さ37�僂如�底面が54�僉�54�僂猟省�体である。
(3) 動作機構
図-2.2にSMAC-B2強震計の内部機構の配置図を示す。内部機構は、その機能上から、スタータ、振子、記録装置の３つの部分に分けられる。
スタータは、ある大きさ以上の振動を受けて電気接点が接触することにより、記録装置を始動させる。その大きさは、原則として5gal、交通機関の振動を受けやすい地点では8galに調整してある。例外的に11galに調整してある地点もある。
振子は、おもりとバネと空気ピストン式の減衰器から構成され、地盤の加速度に比例する慣性力がバネに加わり、その変形で加速度が観測できるように作られている。おもりの運動は、線形な１自由度１質点系の運動方程式で表わすことができるようになっている。
バネの変形は、サファイアペンにより記録紙上に記録される。ペンは、円弧書きで、支点からの距離は15�僂任△襦５�録紙は、フィルムの上に赤色の金属粉末を塗布したもので、サファイアペンでこすることにより、その部分の塗布剤をはく離させ、波形を記録するものである。記録紙はゼンマイモーターにより、毎秒1�僂梁�さで巻きとられる。
記録紙上には、3成分の波形の他に、タイムマークと2本の固定線が描かれている。ここでタイムマークというのは、1秒間ごとに1回入るパルスを記録したもので、記録速度（記録紙の送りの速度）の確認のために描かれる。タイムマークは、ガバナーにより調速されて回転する円板上にある接点により電気回路を接続させて発生させる。円板は3秒間で1回転し、接点は3個取付けられている。したがって、パルスの時間間隔の精度は、円板の回転精度のみならず、接点の取付け位置の精度にも依存する。しかし、パルスの時間間隔として、3パルス分を検定の対象とすれば、この精度は、円板の回転の精度のみに依存する。
固定線というのは、強震計のフレームに固定されたペンによって描かれる線のことで、記録紙の蛇行を検知するために描かれる補助的な線である。この固定線は、3成分の波形の成分どうしの中間に、波形と平行して、計2本描かれる。波形のゼロ線と固定線との間隔は、約4�僂△襦８把蠕�のペンの位置は、波形を描くペンの位置よりも、記録紙の送られる方向に約4〜8�个困譴討い襦�
(4) 仕様
仕様は、表-2.1の通りである。
| 成 分 表 | 水平2成分と上下成分 |
| 固 有 周 期 | 0.14秒 |
| 感 度 | 記録紙上12.5gal／mm |
| 減 衰 度 | 臨界減衰 |
| 減 衰 方 法 | 空気減衰 |
| 最大記録範囲 | 500gal |
| 記 録 速度 | 10mm／秒 |
| 記 録 紙 | スタイラスペーパー |
| 駆 動 方 式 | 手巻きぜんまい式（ガバナ速度調節） |
| 記録時間 | 3分間（１本の記録紙で5回記録可能） |
| ス タ ー タ | 電気式接点上下成分型地震計による |
| スタータ振子の固有周期 | 0.3秒 |
| 起 動 加 速 度 | 5gal |
| 補 助 スタータ | 機械式感震ボールの落下による |
| 刻 時 マーク | 1秒間のバルスマーク |
| 電 源 | 乾電池3V×4個 |
| 大 き さ | 54×54×37�僉米眄�） |
| 重 量 | 100kg |
2.3 ERS強震計
(1) 概要
ERS強震計は、電磁気的な機構を主体とした強震計である。ERS強震計には、磁気テープにより記録する方式のERS-A強震計、オシログラフにより記録する方式のERS-B強震計及びERS-B強震計をやや改良したERS-C強震計の3つの型がある。このうちERS-A強震計は、現在観測に使用されていないので、ERS強震計として、ERS-B及びERS-C強震計について説明する。そこで、これ以後は、ERS-B強震計及びERS-C強震計の総称として、ERS強震計と書くことにする。
ERS強震計は、換振器と記録器とを別々に設置することができるように、両者が分離されている。観測の対象とする地点には、換振器の部分だけを設置すればよいので、SMAC-B2強震計の設置困難な場所、例えば桟橋上にも設置可能となっている。
(2) 基礎
ERS強震計を地盤上に設置する場合、地盤上に直接設置するのは換振器の部分だけであり、基礎はこの換振器に対して必要となる。ERS-C強震計が地盤上に設置される場合には、図-2.6に示すようなマンホール形のコンクリート基礎が使用される。ただし、特に軟弱な地盤や液状化の予想される地盤に設置する場合には、この基礎とともに杭が使用される。ERS-B強震計では、地盤上に設置されているものが2地点にあるが、この基礎の形状は、統一されていない。この基礎の形状については、別報を参照されたい12）。
換振器の重量及び形状については、地盤と基礎との相互作用を検討するための資料として、ここでふれておくことが適当と思われる。ERS-B強震計の換振器は、重量が70.7kg、外形寸法は、高さ28.5�僉�底面が48.3�僉�48.3�僂任△蝓�底面は、正方形の一角が、その1/4の面積を持つ正方形で切取られた形をしている。ERS-C強震計の換振器は、重量が103kg、外形寸法は、高さが35.6�僉�底面は43.4�僉�43.4�僂寮喫�形である。
(3) 動作機構
ERS強震計は、機能上からも、形状の上からも、スタータ、換振器、記録装置の3つの部分に分かれている。
スタータは、ある大きさ以上の振動を受けてその内部の振子の一部が電気接点と接触することにより、記録装置を始動させる。その大きさは、SMAC-B2の場合と同じで、原則として5gal、雑振動の大きい場所では8galに調整される。スタータは、点検や調整の行い易いように記録装置とともに置かれ、換振器からは離れている。
換振器は、可動線輪型で、おもりと一体となったコイルと強震計のフレームに固定された永久磁石とおもりを支えるバネの3つの部分から構成されている。地面の加速度が、コイルと永久磁石との相対速度に比例するようにさせ、地面の加速度に比例する電圧をとり出す。おもりの運動は、線形な1自由度1質点系の運動方程式で表わすことができるようになっている。
記録装置は、SMC-B2強震計の場合のペンに相当する部分と、記録紙の駆動部分とに分かれる。ペンに相当する部分は、ガルバノメータと光源と補助的な反射鏡から成っている。
ガルバノメータは、バネで支えられた反射鏡と、この反射鏡を動かすためのコイルから成っており、永久磁石の助けをかりて、加えられた電流に比例した回転角で反射鏡が回転する。換振器で発生された起電力により、換振器とガルバノメータおよびその間に挿入された抵抗から成る回路に起電力に比例した電流が流れ、さらに、ガルバノメータの反射鏡は、この電流に比例する回転をする。換振器で発生された起電力は、地面の加速度に比例しているから、結局ガルバノメータの反射鏡の回転角は、地面の加速度に比例することになる。この反射鏡の回転が、光源から出る光線によって感光性の記録紙上に記録される。なお、厳密には、ガルバノメータのコイルから逆起電力が発生するが、これが換振器のコイルの運動に与える影響は、実用上無視できる大きさである。
記録紙は直流12Vのバッテリーから変換器を通して得られる100V、50Hzの交流電源で交流モーターを駆動することにより送られる。記録速度は、ERS-B強震計では2��/sec、ERS-C強震計では4��/secである。
記録紙上には、波形の他に、タイムマークと、固定線が描かれる。タイムマークは、0.1秒間ごとに1回入るパルスを記録したもので、記録速度の確認のために描かれる。ERS-B強震計の場合、タイムマークは、先に述べた直流から変換された交流電源に同期して発生している。したがって、記録紙の送りむらが、交流電源の周波数変動に起因している場合には、検知することができない。ERS-C強震計の場合には、水晶発振器によりタイムマークを発生しているので、パルスの時間間隔の精度は十分に信頼できるものとなっている。
固定線は、グリッドラインとも呼ばれ記録器のフレームに固定された反射鏡により描かれ、2�亟岾屬乃�録紙一面に挿入される。波形を描く光線の記録紙上の像は、固定線を描く光線の像よりも、記録紙送りの方向に約5�个困譴討い襦�
(4) 仕様
ERS-B強震計、及びERS-C強震計の仕様を、それぞれ、表-2.2、表-2.3に示す。
| 換 振 器 | |
| 型 式 | 可動線輪型 |
| 成 分 表 | 水平2成分 |
| 固 有 周 期 | 0.5秒 |
| 減 衰 定 数 | 約17 |
| 減 衰 方 法 | 電磁制動 |
| 測定加速度範囲 | 250gal |
| 抵 抗 | 320Ω |
| 出 力 電 圧 | 約2mV／gal（無負荷のとき） |
| 耐 水 性 | 20kg/cm2以上 |
| 記 録 器 | |
| 型 式 | 電磁オシログラフ |
| ガルバノメータの固有振動数 | 100Hz |
| 感 度 | 166mm／mA |
| 記 録 紙 | 92mm（幅）×30m（長さ）（無現像） |
| 記 録 紙 送 り 速 度 | 2cm／秒 |
| 刻 時 マ ー ク | 0.1秒 |
| 電 源 | 蓄電池（自動充電） |
| 換 振 器 | |
| 型 式 | 可動線輪型 |
| 成 分 表 | 水平2成分、上下成分 |
| 固 有 周 期 | 3Hz |
| 減 衰 定 数 | 約17 |
| 測定加速度範囲 | 500gal |
| 耐 水 性 | 20kg／cm2以上 |
| 記 録 器 | |
| 型 式 | 電磁オシログラフ |
| ガルバノメータの固有振動数 | 270Hz |
| 記 録 紙 | 198mm（幅）×30m（長さ）（無現像） |
| 記 録 紙 送 り 速 度 | 4cm／秒 |
| 刻 時 マ ー ク | 0.1秒 |
| 記 録 感 度 | 2または10gal／mm |
| 電 源 | 蓄電池（自動充電） |
(5) 換振器の振動数特性
換振器の振動数特性として、地面の加速度に対する発生起電力の関係を示す。
(刀H 振幅特性
図-2.7に、振幅特性を示す。たて軸は、最大値が1となるように正規化してある。
(刀ァ 位相特性
図-2.8に、位相特性を示す。
(6) 記録器の振動数特性
記録器の振動数特性として、入力される電流に対する記録振幅の関係を示す。
(刀H 振幅特性
図-2.9に、振幅特性を示す。たて軸は、最大値が1になるように正規化してある。
(刀ァ 位相特性
図-2.10に、位相特性を示す。
(7) 総合振動数特性
総合振動数特性として、地面に加速度に対する記録された加速度の関係を示す。
(刀H 振幅特性
図-2.11に、振幅特性を示す。
(刀ァ 位相特性
図-2.12に、位相特性を示す。さらに参考のため、位相特性として、位相差を時間差に換算して表わしたものを図-2.13に示す。
