1.　緒論

1.　緒　論
　港湾地域強震観測で得られた記録は、著者らの属する港湾技術研究所耐震構造研究室により、港湾地域強震観測年報として1968年以来刊行されてきた。年報に含まれる数字化された記録は一定の処理方法により作製されてきた。近年、記録の利用も多様化し、これに応じて処理方法も高度化する必要が生じた。そのため、処理方法の高度化に関する種々の検討を行なった。本報告は、それらの検討の結果と新しく採用される処理方法について報告するものである。
　本章では以下に、港湾地域強震観測の概要、処理方法、改良の必要性、および本報告の構成等について説明する。
　なお、本報告で示す処理方法は1976年以降の記録に適用されるものである。1975年およびそれ以前の記録の処理方法はそれぞれの年報に記述されている。

1.1　港湾地域強震観測および年報
　日本の港湾地域における強震観測は、1962年より強震計の設置が始まり、1977年12月現在で、46の港湾に69台の強震計を有する観測綱に発展した。この観測綱からの記録に関しては、1963年3月に最初の記録が得られ、昭和52年12月までに約1,200本の記録を集積するに至った。これら記録の中には1968年十勝沖地震（マグニチュード7.9）の際に北海道、東北地方、関東地方の15観測地点で得られた記録も含まれている。
　この港湾地域強震観測は、著者らの属する港湾技術研究所耐震構造研究室が中心となり、港湾関係諸機関が協力して実施しているものである。強震計の点検および記録の回収および耐震構造研究室への送付は港湾関係の工事事務所等の強震計設置地点の現地機関が担当し、記録の整理、保管、解析、刊行は耐震構造研究室が担当している。
　港湾地域強震観測で得られた記録は、原則として歴年単位でまとめられ、「港湾地域強震観測年報」として刊行されてきた1）〜11）。これらの年報には、記録を地震ごとに分類し、その地震に関する資料および各記録の各成分の最大加速度を添えた全記録の一覧表が示されている。また、最大加速度の大きい記録（通常50gal以上）については、記録波形、数字化した記録、フーリエスペクトル、応答スペクトルも記録されている。
　これらの年報は、港湾関係者のみならず、耐震工学に関係する世界各地の多数の研究者、技術者により活用されてきた。記録の活用の形態も年と共に多様性を増し、記録から最大限の工学的情報をとり出そうとする努力が重ねられている。このようなことから、1964年に最初の年報を刊行した時点では予想されなかったような利用形態も発生し、記録の精度、特に数字化された記録の精度に対する要求も年と共に高まってきた。
　他方、年報は毎年刊行されるものであるから、同じ形式で刊行されているほうが利用者にとって便利であり、また、刊行する側にも能率的である。したがって、港湾地域強震観測年報は、その最初のもの以来、基本的には同一形式で刊行されてきた。もちろん、世界中の関係者に利用し易すくするため記述を英文としたり、紙面を有効に活用するため数字化した記録の作表形式を改良するといった変更は行なわれている。

1.2　本報告の目的
　先に説明したように、強震記録の活用が多様化し、高精度の記録が必要となった。大部分の記録の活用においては電子計算機を利用し、したがって、ここでいう記録は高精度の数字化された記録ということになる。高精度の記録を必要とする具体例として次のようなものがある。
　�　‥纏匏彁撒，砲茲蠱録矛廚凌尭或�特性（一般には計器特性と言われることが多い）を補正し、強地震動をより正確に把握しようとすること。
　��加速度波形の記録から速度および変位波形の記録を求めること。
　前記の例によらず、いかなる活用においても記録の精度が高いことは望ましいことである。また、それぞれの記録の精度について正しい認識をもたなければ、記録の活用を誤るおそれがある。
　以上を背景として、本報告は以下の事項を検討した。
　�　仝従�で可能な限り精度の高い数字化された記録を得るための処理方法についての検討を行なう。ここでいう処理方法は記録の読取りと補正を指す。
　�◆‘世蕕譴慎�録の精度について検討する。
　��　加速度波形から速度波形および変位波形を求める手法を検討する。
　なお、ここで行なわれる検討は、港湾地域強震観測で使用されている強震計と数字化装置を組合せたものについて行なわれる。したがって、同じ強震計の記録でも異なる型式の数字化装置と組合わせて使用する場合には、本報告で検討された数値をそのまま適用できないことがある。
　本報告の検討では、著者らの置かれている状況のもとで、精度の向上が期待できる部分は最大限の向上をはかるという態度を採った。すなわち、他の部分の精度との相対比較により全体として均衡のとれた目標水準を設定し、各部分がそれに達するようにすることはしていない。したがって、現状では部分ごとに不均衡があり得る。また、原則的には検討されるべき項目であっても、検討が保留されている項目もある。それらについては、器機は仕様どうり正確に動作しているものとした。

1.3　本報告の構成
　本報告では種々の項目が検討され、かつ、相互に関連するものが多いので、具体的な報告に先立ち、報告の構成を紹介しておく。
　この報告で取上げる強震計はSMAC-B2強震計およびERS強震計の2種類である。2章〜5章においてこれら強震計および記録の数字化装置、観測体制について説明する。
　6章において、記録の数字化の方法の詳しい説明と誤差の検討を行う。
　7章において、数字化された記録の補正について説明する。補正に必要な検定の結果の紹介も行う。
　8章において、加速度波形から速度波形および変位波形を求める方法について検討する。
　9章において、補正された記録の精度等に関する諸事項について説明する。

　強震計および数字化装置の説明は次章以降にあるので順序が逆という面はあるが、対象とする両強震計について、記録時から数字化された記録を得るまでの過程における誤差を整理したものを、表-1.1、2に示した。各部分の説明の全体における位置を把握するのに役立つと思う。

表-1.1　SMAC-B2強震計の記録の誤差の項目

数字化までのプロセス 誤　差　の　項　目


　地

　震

　計

 基　　礎 S.1 基礎の影響
振　　子 S.2 振子の特性
S.3 振子の特性の仕様からのずれ


記録装置
記録紙送り

 S.4 記録紙の送りの立上り
S.5 記録紙の送りむら
S.6 記録紙送りの平均速度の仕様からのずれ
S.7 記録紙の蛇行
ペン
 S.8 円弧書き
S.9 円弧書きペンの片寄り


　数

　字

　化

記録の収集から数字化まで 		記録紙 S.10X 記録紙の伸縮（X方向）
S.10Y 記録紙の伸縮（Y方向）
コピーの作業
 S.11X 数字化用コピー作製時のひずみ（X方向）
S.11Y 数字化用コピー作製時のひずみ（Y方向）
コピー紙
 S.12X 数字化用コピーの伸縮（X方向）
S.12Y 数字化用コピーの伸縮（Y方向）


数字化

 数字化装置
 S.13 数字化装置の特性（標本化と量子化）
S.14 数字化装置の特性の仕様からのずれ
数字化作業

 S.15 コピーのセッティングの誤差（回転）
S.16 Y軸設定の誤差（並進）
S.17 トレース時の視差等の誤差

表-1.2　ERS強震計の記録の誤差の項目

数字化までのプロセス 誤　差　の　項　目


　地

　震

　計

 基　　礎 E.1 基礎の影響

振　　子		 E.2 振子の特性
E.3 振子の特性の仕様からのずれ

記録装置




 ガルバノメータ E.4 ガルバノメータの特性
E.5 ガルバノメータの特性の仕様からのずれ
ガルバノメータ・ボックス E.6 ガルバノメータ・ボックスの振動
記録紙送り


 E.7 記録紙の送りの立上り
E.8 記録紙の送りむら
E.9 記録紙送りの平均速度の仕様からのずれ
E.10 記録紙の蛇行

数字化


 記録の収集から数字化まで
 E.11X 記録紙の伸縮（X方向）
E.11Y 記録紙の伸縮（Y方向）

数字化		 数字化装置
 E.12 数字化装置の特性
E.13 数字化装置の特性の仕様からのずれ
数字化作業

 E.14 記録紙のセッティングの誤差（回転
E.15 Y軸設定の誤差（並進）
E.16 トレース時の視差等の誤差
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