6.1 記録の数字化
(1) SMAC-B2強震計の記録の数字化
SMAC-B2強震計の記録には、次のようなものが記録されている。
○加速度波形
○固定線
○タイムマーク
○円弧
○振子の自由振動波形
このうち、円弧というのは、記録紙を静止させてペンを手動で動かすことにより記入したマークである。もともとの目的は、±4�僂凌局�が記録できることの確認のために記入していたものであるが、このマークは同時にペンが記録紙送りの方向と平行になっているかどうかの確認のためにも使うことができる。
数字化の対象とするものは、加速度波形、固定線、円弧である。固定線や円弧のデータは後に述べる補正を行なうために利用する。タイムマークについては、平均的な記録紙の送りの速度を求めるために、30パルスに対応する記録長を測定するが、1秒ごとのパルスの数字化は行なわない。
なお、振子の自由振動波形は、原則として記録回収時に、振子のダンピングを確認するために記入する。この波形の数字化については、現在検討中である。さらに、付加的な事項であるが、固定線を描くペンは、SMAC-B2強震計の標準仕様にはないもので、港湾地域強震観測において使用される強震計に、特注品として装備したものである。
数字化においては数字化装置のテーブルの大きさの制限により、もとの記録を約30秒間の区間に分割して数字化を行なう。記録の全長のうち、加速度波形が後の部分の振幅がほとんどゼロと見なし得る部分は数字化しない。ゼロと見なし得るかどうかの判断は現在のところ視察によってなされている。使用する数字化装置および記録のコピーについては既に説明した通りである。
次に、SMAC-B2強震計の記録の数字化の方法を、順を追って説明する。
図-6.1 SMAC-B2強震計の記録例（S-1,028）
(刀H コピーのセッティング
まず、記録のコピーを数字化装置のテーブルに、棒磁石で固定する。次に、テーブルの調整ネジを使ってコピーの固定線が数字化装置のX軸にほぼ平行になるように、テーブルを微小回転させる。この調整には、固定線上の点で、それぞれのコピーで数字化しようとする区間約30秒の両端にある2つの点を使い、この2つの点のY座標が一致するようにテーブルを回転させる。なお、数字化装置の（X、Y）座標については、「3.数字化装置」において説明した通りである。
(刀ァ Y軸のゼロ点の設定
次に、Y座標をゼロとするべき点に拡大鏡のクロスマークを合わせ、数字化装置のY座標をゼロに初期化する。この操作をY軸のゼロの設定ということにする。
Y座標をゼロとするべき点としては、加速度波形を数字化する場合には、加速度がゼロとなる点とすることが自然である。しかし、Y軸のゼロ点の設定には、視差等の影響で、微少な誤差が含まれる。この誤差は、加速度としては微少であっても、加速度波形から求めた速度および変位の波形には大きな影響を与えるもので、なんらかの補正が必要とされる。ところが、この補正による補正値は、「7.3区分的ゼロ線補正」で説明する補正方法によれば、Y軸のゼロ点の設定位置には無関係に求めることができる。
したがって、Y軸のゼロ点の設定は、任意に行なっておけばよい。そこで、便宜上、Y軸のゼロ点の設定は、読始めの点のY座標をゼロとするように行なう。
Y軸のゼロ点の設定は、加速度波形とともに円弧を数字化するときには、円弧の数字化に先だってY軸の設定を行ない、円弧と加速度波形とは、同一のY座標について数字化する。これは、円弧と加速度波形の位置関係を知ることにより、ペンの片寄りを含めた円弧補正を可能にするためである。
(唐H トレース
オペレータが拡大鏡のクロスマークを波形に合わせ、押ボタンを押すと、その点のY座標が0.008�弌�0.1galに担当）を単位とする整数値で紙テープにパンチされ、クロスマークはX軸方向に0.01�弌�0.01秒に相当）送られる。 この操作を繰返すことによりトレースを行なう。
なお、円弧の数字化は、X軸方向へのステップ送りのスイッチを操作して、同一のX座標をもつ2つの点のY座標をつづけて数字化するようにしてある。
(唐ァ 収録
紙テープにパンチされたデータは、さらに、磁気テープに収録される。磁気テープには、このデータと共に、記録番号、成分、設置地点の略称、発震時刻、地盤上または構造物上の加速度であることを示すための略称、データの時間間隔、データ形式の番号、データ数が書かれる。
SMAC-B2強震計の記録の数字化のプロセスを、図-6.2に示す。
図-6.2 SMAC-B2強震計の記録の数字化のプロセス
(2) ERS強震計の記録の数字化
ERS強震計の記録では、加速度波形と、固定線を一本数字化する。固定線は記録紙の全幅について、2�亟岾屬乃�録されているが、ほぼ中央の固定線を数字化に用いる。記録の全長のうち、記録の終わりの部分の加速度波形の振幅が殆どゼロと見なし得る部分は数字化しない。ゼロと見なし得るかどうかの判断は、現在のところ、視察によりなされている。数字化するべき部分が70�僂茲蠅眥垢ぞ豺腓砲蓮¬�70�僂瓦箸傍�録の区分する直線を描き込んでおく。
これは数字化装置のテーブルの大きさの制限で、約70�僂龍茣屬吠�けて数字化しなければならないからである。記録紙の送り速度はERS-B強震計の場合2��/sec、ERS-C強震計の場合は4��/secであるから、この70�儷茣屬蓮△修譴召賁�35秒及び約17.5秒に相当する。数字化には強震計から得られた原記録をそのまま使用する。数字化装置は、ERS強震計のための数字化装置を使う。
記録紙のセッティング及びY軸の設定は、SMAC-B2強震計の記録の場合と同じようにして行なう。
オペレータがカーソルで波形をなぞると、カーソルがX軸方向に0.1�舒榮阿垢訶戮�X座標及びY座標の値が電子計算機に送られ、正しいX座標の値であることが確認された後に、Y座標の値が電子計算機に記憶される。Y座標は、0.1�个鮹碓未箸垢訐或瑤派修錣気譴襦�サンプリングの時間間隔は、ERS-B強震計の記録の場合は0.005秒、ERS-C強震計の記録の場合は0.0025秒に相当する。また、ERS強震計の感度は、ERS-B強震計の場合は約1gal/�弌�ERS-C強震計の場合は約2gal/�个泙燭鰐�10gal/�个任△襪�ら、Y座標を表わす整数値の単位は、それぞれ約0.1gal、約0.2gal、約1galに相当する。
所定の区間の数字化が完了すると、電子計算機に記憶されたデータは、磁気テープに収録される。このデータとともに、記録番号等がSMAC-B2強震計の記録の場合と同じ形式で書かれる。
なお、タイムマークは、平均記録速度を求めるために用い、この数字化装置を使って、ERS-C強震計の記録の場合には、17.5秒間の長さを測る。ERS-B強震計の記録の場合には、タイムマークの精度が、電源周波数に依存するのでタイムマークの数字化は行なわれないことにした。
ERS強震計の記録の数字化のプロセスを図-6.3に示す。
図-6.3 ERS強震計の記録の数字化のプロセス
6.2 数字化におけるトレースの精度
数字化のため、数字化装置のクロスマークで波形をトレースする時には、視差や手ぶれなどのようにオペレータに起因する誤差と、量子化のように数字化装置の機構に起因する誤差とが混入するものと予想される。ここでは、このようなトレースにおける誤差の大きさや性質について検討する。
(1) 検討の方法
検討にあたって、まず、同一の波形を数回トレースして数字化した。記録は数回のトレースを通じて数字化装置のテーブルに固定し、記録のセッティングの状態がトレースのたびに変わることのないように配慮した。
ただし、Y軸のゼロ点の設定は、数字化区間の0Hzの成分にだけしか影響を与えないので、トレースのつど任意に行ない、さらに、このようにして数字化された記録の0Hzの成分を取除いたものを以下の検討に用いた。
誤差の検討は、補正のために用いるフィルタの検討に便利なように、周波数領域で行なこととした。誤差のとらえ方としては2通りの方法を採用した。一つは、フーリエ変換の位相差を含めて誤差をとらえる方法であり、これは、波形としての相違を誤差としてとらえることに相当する。
この方法では、波形相互の時刻のずれによる見掛けの誤差の影響に注意する必要がある。もう一つは、フーリエ変換の絶対値のばらつきを誤差としてとらえる方法であり、これは、波形を規定する一つの重要な性質のみを評価の対象として、誤差をとらえるものである。
ここでは、以下の検討おいて、前者のとらえ方によるトレースの精度を"波形としての精度"と呼び、後者のとらえ方による精度を"スペクトルの大きさとしての精度"と呼ぶことにする。
(刀H 波形としての精度の検討方法
まず、波形相互の時刻のずれによる見掛けの誤差を取除くため、任意の２つの波形の差の２乗和を最小にするという条件を満たすように時刻の調整を行なった。すなわち、波形のフーリエ変換をZｋ（f）、fを振動数、nを同一波形の数字化の回数、kを数字化した波形の番号（k=1、…、n）、τkを波形を全体としてずらすべき時間、iを虚数単位として、
.png)
・・・ (6-1)
なる条件でτkを定めた。時刻の調整された波形のフーリエ変換をUk(f)とすれば
.png)
・・・ (6-2)である。波形が相互に最も一致するように時間軸方向にずらしているので、トレースにおける誤差のうち、一様に波形をずらすような影響を与える誤差の成分は取除かれてしまう。したがって、ここで検討する誤差は、トレースにおける誤差のうち、波形をシフトさせるような成分を取除いた残りのランダムな誤差である。
誤差は、数字化したn本の波形の平均波形からの差であるものとした。具体的には、平均波形のフーリエ変換 U0(f)：
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・・・ (6-3)に対して、誤差V(f)を、
.png)
・・・ (6-4)により求めた。
ここでは、同一波形を無限回トレースした場合を想定し、すべてのトレースについて発生する誤差の平均的な性質を検討することを目的とする。数字化の回数nが十分に大きければ、先に述べた（式(6-3)、(6-4)参照）求め方により誤差の平均的な性質を検討することができると考えられるが、ここで行なった検討では、nがたかだか6であり、誤差の平均的な性質をとらえるためには、nはやや小さいと思われる。
試みに、誤差に対する平均値の大きさ│U0(f)│／V(f)を計算したところ、振動数ごとの変動が激しく、振動数軸上での単純なパターンを見出すことが困難であった。そこで、V(f)から誤差のパワースペクトルを推定し、これを検討に用いることとした。
ここで、直接に平均的なV(f)を推定せずに、パワースペクトル、すなわち平均的な［V(f)］2／T（ここにTはトレースした波形の長さ）を推定した理由を補足しておく。その理由は、トレースした長さTを大きくすれば、平均的なV(f)も増大するのに対し、平均的な［V（f）］2／T（時間領域で言えば、自己相関関数）は、検討のためにトレースした長さTによらず、一定の値をとると思われるからである。
また、トレースした波形についても、一つ一つの波形のトレースの精度を検討するのではなく、似たような性質を持つ多くの波形についての平均的な精度を検討することとし、U0(f)から波形のパワースペクトルを推定して、これを検討に用いることとした。
パワースペクトルをこのように有限長のデータから推定する場合、推定されたパワースペクトルとサンプルされたデータの一致度と推定したパワースペクトルの確からしさとの兼ね合いで、その求め方には色々あり、それらの方法で求めた結果は相互に著しく異なることがある。
したがって、厳密な検討においてはパワースペクトルを求める方法の選択に注意しなければならない。現在定常な時系列に適用するための妥当な方法としては、自己回帰モデルのあてはめ、あるいは移動平均・自己回帰の混合型モデルのあてはめがある13），14）。
しかし、ここでは定常性の検討や統計的性質の把握を精密に行なうことが主眼ではないので、これよりは大まかな推定方法で十分であると判断した。そこで、パワースペクトルは、先に求めたU0（f）、V（f）から、次式に示すような2Hzの平均幅の移動平均を行なって求めた。すなわち、平均波形のパワースペクトルをQ（f）、誤差のパワースペクトルをR（f）、数字化された波形の全長をTとして、
.png)
・・・ (6-5).png)
・・・ (6-6)さらに、数字化の平均的な精度を振動数成分ごとに見るために、誤差のパワースペクトルに対する波形のパワースペクトルの比の平方根√Q(f)/R(f)を検討に用いた。パワースペクトルは、波形の振幅の自乗に対応する量であるので、振幅としての精度を見るために平方根をとることにしたものである。
最後に、すべての振動数の成分を合わせて考えた時の誤差の大きさσ１を次式により求めた。
.png)
・・・ (6-7)ここに、Tは数字化された波形の全長である。
σ1は、パーセパルの等式を考えればわかるように、波形の各点においてトレースされた値の標準偏差である。
(刀ァ スペクトルの大きさとしての精度の検討方法
スペクトルの大きさとしての精度の検討では、誤差は数字化された各波形のフーリエ変換の大きさ（絶対値）と、その平均値との差であるものとした。すなわち、数字化された各波形のフーリエ変換をZk(f)（k=1,…，n）として、この絶対値の平均値u(f)：
.png)
・・・ (6-8)に対して、誤差v(f)を、
.png)
・・・ (6-9)により求めた。
誤差の平均的な性質や数字化の平均的な精度を検討するため、「(刀H波形としての精度の検討方法」と同様に、これらの値からそれぞれのパワースペクトルを推定した。すなわち、平均値のパワースペクトルをq(f)、誤差のパワースペクトルをr(f)として、
.png)
・・・ (6-10).png)
・・・ (6-11)ここに、Tは数字化した波形の長さである。
数字化の精度は√q（f）/ r（f）を用いて検討した。
全振動数の成分を合わせた誤差の大きさσ2は、
.png)
・・・ (6-12)
(2) SMAC-B2強震計の記録のトレースの精度
(刀H 波形としてのトレースの精度
この結果について、トレースにおける誤差の性質を列挙すれば、次の通りである。
(刀ァ スペクトルの大きさとしてのトレースの精度
この結果は、波形としてのトレースの精度の検討結果と定性的な共通点がかなり見られる。まず、誤差のスペクトルの形については、a)〜f)までの事項がすべてあてはまる。誤差の大きさについては、この評価方法では、波形としての精度の検討結果に比べてやや小さな値となる。
すなわち、
検討のため数字化した記録は、S-252NSの一部で、24秒間を数字化した、数字化は、同一のオペレータにより２回行なった。再生波形の一部を図-6.4(a)に示す。図-6.4(b)には、細部の比較を容易にするために上下方向にずらして作図したものを示した。
図-6.4(a)同一波形のトレースの結果(S-252NS)の一部
図-6.4(b) 同一波形のトレースの結果（S-252NS）の一部（図6.4(a)の2つの波形を上下方向にずらして作図したもの）
図-6.5に、解析結果を示す。図の上から順に、誤差のパワースペクトルに対する平均波形のパワースペクトルの比の平方根、平均波形のパワースペクトル、誤差のパワースペクトルを示した。求め方は、先に説明した通りである。なお、波形の時刻の調整は、10-7秒の単位まで行なった。
図-6.5 波形としてのトレースの精度（S-252NS）
(A) 誤差のスペクトルの形
a) トレースの誤差は、あらゆる振動数の成分を含む。
b) 50Hzまでの振動数範囲では、おおむね高振動数の成分であるほど小さい。
c) 振動数が高くなるにつれて小さくなる度合は例えば、振動数に反比例するほどに急激ではなく、これよりもなだらかである。
d) この性質に加えて、大小のピークが散在する。
e) 最大のピークは、波形のピーク振動数より高い振動数に出現している。
f) 波形との相関性は明らかでない。しかし、振動数が高くなるにつれて小さくなるという定性的な性質は誤差と波形とに共通している。
(B) 誤差の大きさ
g) 誤差の大きさをパワースペクトル（密度）で表わせば、0.01〜0.1(gal2/Hz)である。
h) 全ての振動数の成分を合わせた誤差の大きさ、すなわち、トレースした波形の任意の点におけるトレースの値の標準偏差は2.2gal（記録紙上で0.18�弌砲任△襦�
また、数字化の精度については、次の事項を指摘しておく。
(C）数字化の精度
i) 振動数ごとに見た誤差に対する波形の大きさの比は、波形に含まれる成分が優勢であるほど大きい。その程度は、おおむね波形に含まれる振動数成分の大きさに比例する。
j） 振動数の範囲を、精度の良い部分と悪い部分とに分けるとすれば、その上側の境界は約10Hzであり、これ以下の振動数の範囲での精度が良い。
k) 誤差に対する波形の大きさの比を振動数ごとに見ると、ここに述べた例では、最大で80程度である。
以上に列挙したトレースの誤差と精度について、若干の考察を加えておく。まず、i)に示した波形のスペクトルと精度を表わすスペクトルの類似性は、裏がえして言えば、誤差をホワイトノイズと見なすことができることを示している。
すなわち、誤差はb)〜e)に示した性質は持つものの、b)〜e)に示した振動数軸上の変化の度合は、数字化した地震波形の成分の振動数軸上の変化の度合に比べれば十分に小さいということを示している。
考察の第2点として、j)に示した数字化の精度の良い範囲を10Hz以下とすることが、どの程度多くの記録波形について言えるかについて考える。この考察は、計器特性補正と関連した高い振動数成分を取去るフィルタの検討に役立つものと思われる。一般的に言えば、i）に指摘したように精度の良い範囲は、数字化する地震波形の性質によって変化するものと考えられる。
しかし、SMAC-B2強震計の計器特性（図-2.3参照）を考えれば、特に10Hzという振動数に限定することはできないにしても、この程度の振動数以上の高い振動数成分が記録波形として優勢に含まれるという可能性は、少なくとも地震時の地盤の振動の記録では小さいと思われる。したがって、k)に示した10Hzという振動数は、一応の目安として一般化してもよい数字であると思われる。
次に、誤差の性質e)の発生原因については、次のようなことが考えられる。仮に、トレースにおける誤差が、波形の任意の点における接線と直交する方向に一定の分散を持つように混入すると仮定する。
この仮定は、オペレータが波形からのクロスマークの位置のずれの大きさをどのようにして評価しているかに関係するが、それほど不自然な仮定とは思われない。この仮定に立てばY軸方向に換算した誤差の大きさは、波形の任意の点における接線の傾きの絶対値の大なる部分では大きくなり、傾きの小なる部分では小さくなる。
したがって誤差の分散は、数字化する波形を一回微分したものの絶対値に近い形の変動をすることになる。この影響により、誤差においては、波形のピークよりも若干高い振動数でピークの発生することが推測される。しかし、この推測は、定量的にどの程度確かであるかがあいまいであり、e)にあげた誤差の性質が、どの程度一般的に言えるのかは不明である。
最後に、g)，h)に述べた誤差の大きさがどの程度一般に言えるのかについて考察する。先に仮定したのと同じく、オペレータが波形とクロスマークのずれの大きさを、波形からの距離によって評価するものとすれば、既に述べたように、誤差の分散は、数字化する波形を１回微分したものの絶対値に近い形の変動をする。
したがって、同一の記録紙の送りの速度の記録で、波形の大きさが同じような波形のトレースにおいては、高い振動数成分の含まれる割合が大きいほど、混入する誤差の割合が大きくなるものと推測される。また、誤差の値そのものについては、記録紙の送り速度が同じであって、スペクトルの形が同じような波形のトレースにおいては、振幅の大きい波形の場合の方が、誤差の値は大きくなると推測される。もっともこの場合には、誤差に対する波形の大きさの比は振幅の大きさにかかわらずおおむね一定である。
このように考えると、先にg)、h)に示した誤差の大きさは、トレースする波形の性質によって変わるもので、ここで数字化を行なった波形と同じような大きさで、同じようなスペクトルを持つ波形に対しては、この値が適用できると言える。
さらに、スペクトルの形や波形の大きさの異なる場合にも、その形と大きさをここで検討した波形の例と比較することにより、g)，h)に示した値よりも誤差が大きい小さいかを推測することができる。このような意味において、これらの値を一応の目安として一般化してもよいと思われる。
さて、以上の検討は、先に検討方法について説明した通り、2Hzの平均幅の移動平均によって求めたパワースペクトルをもとにして行なっている。したがって、加速度波形を積分すると卓越する数秒程度以上の周期の誤差について、この検討結果からではその様子がよくわからない。
そこで、低振動数の部分の精度を、フーリエ変換の大きさの形で表わしたもの（式(6-3)、(6-4)参照）を図-6.6に示した。図の上から誤差の"フーリエ変換"に対する平均波形のフーリエ変換の比、平均波形のフーリエ変換、誤差の"フーリエ変換"を示した。
ここに示した振動数の範囲だけを検討の対象としても、おおむねi)に示した精度についての一般的な性質があてはまる。ここに示した振動数範囲での誤差の大きさは、パワースペクトル密度に換算すれば、約0.04（gal2/Hz）であり、g)で述べた大きさである。誤差に対する平均値の比の大きさも、おおむねk)で述べた最大値に相当する。
図-6.6 波形としてのトレースの精度 (S-252NS)
図-6.7に、先に述べたスペクトルの大きさとしての精度の検討方法に従って求められた結果を示す。図の上から順に、誤差のパワースペクトルに対するトレースした波形の平均的パワースペクトルの比の平方根、波形の平均的パワースペクトル、誤差のパワースペクトルを示した。
図-6.7 スペクトルの大きさとしてのトレースの精度(S-252NS)
g′)スペクトルの大きさとして誤差を評価すれば、その大きさは、パワースペクトル密度で表わせば、0.01〜0.05（gal2/Hz）である。
h′）全ての振動数の成分を合わせた誤差の大きさは1.4（gal）（記録紙上で0.11�弌砲任△襦�
数字化の精度については、定性的な事項ｉ)とj）があてはまる、k)については、
k′）誤差に対する平均値の大きさは、振動数ごとに見れば、ここで検討した例では最大で120程度である。
波形としての精度の検討において示したのと同様に低振動数の部分の精度を、フーリエ変換の大きさの形で表わしたもの（式）(6-8)、 (6-9)参照）を図-6.8に示した。ここに示した振動数の範囲でも、先に述べた精度についての一般的な性質ｉ）、誤差に対する平均値の大きさの程度k′）は共通している。もっとも振動数ごとの誤差に対する平均値の大きさやばらつきはかなり大きいので、ピークの値はかなり大きいが、このようなピーク値はトレースのたびに変化するものと思われ、一般的に評価することは困難あろう。
0.1Hz以下で、精度の落ち着いている点は、積分を行うことを考えると、やや気になる点であるが、この程度の落ち込みは、他の振動数成分においても随所で起こっている通り、単なるばらつきの結果であるものと思われる。ここに示した振動数範囲における誤差の平均的な大きさはパワースペクトル密度に換算すれば、約0.03（gal2/Hz）である。
図-6.8 スペクトルの大きさとしてのトレースの精度 (S-252NS)
なお、感度は、いずれを10gal／�个箸靴銅莪靴辰拭�
