7.5 記録紙送りの立上り補正
(1) 補正の目的
この補正も，SMAC-B2強震計の記録について行なう。SMAC-B2強震計の記録器は，記録紙送りの装置が始動してから一定速度に達するまでに2〜3秒かかる。そこで，この部分の時間間隔を補正することを目的として，補正を行なう。
(2) 記録紙送りの立上りの実測例
記録紙送りの立上りの測定は，次のようにして行なった。まずSMAC-B2強震計のパルスマークを描くペンを電接時計の回路からきりはなし，ファンクション・ジェネレーターに接続した。これは，パルスの時間間隔を正確なものとすると同時に，パルス発生の時間間隔を十分に短いものにするために行なった。パルスの時間間隔は0.2秒とした。
強震計の記録器を始動させて，パルスの記録を得た後，0.1mmまで目盛られている拡大鏡つきの目盛板を使用して，パルスの間隔を読取った。対象とした強震計は，港研構内に設置されている強震計（港研-S）と，横浜港に設置されている強震計（京浜事-S）である。
図-7.8に，港研-Sの強震計についての実測例を示す。図は，記録器始動時からの経過時間を横軸に，0.2秒ごとのパルスの記録紙上の間隔を縦軸にプロットしたものである。図(a)はNo.1の測定にひきつづいてNo.2の測定をした結果で，ゼンマイは，No.2の方がゆるんだ状態になっている。ただし，No.1の測定時にゼンマイがいっぱいに巻かれていたかどうかは不明である。
図(b)はNo.3，No.4，No.5の順で連続して測定した結果で，No.3では，ゼンマイを規定の状態まで巻いた状態で測定し，No.4，No.5の順で，ゼンマイはゆるんだ状態になっている。この5回の測定結果について，記録器の始動時からの経過時間ごとに最大，最小及び平均のパルス間隔を求め，図(c)に示した。
図-7.8 記録紙送り立上り（港研-S）
図-7.9には，京浜事-Sの強震計についての実測例を示す。この測定ではNo.1をゼンマイを規定の状態まで巻いた状態で測定し，以下連続して，No.2からNo.5までの測定を行なった。図(c)に，この5回の測定結果についての最大，最小，及び平均のパルス間隔を示す。
図-7.9 記録紙送り立上り（京浜事-S）
図-7.10 記録紙送りの立上り
これらの実測例から，記録紙送りの立上りは，強震計によらないある一定の曲線で近似しても，この近似による誤差は実用上十分小さいと判断した。強震計は点検時にゼンマイが規定の状態まで巻かれるので，わずかな例外を除けば，記録は，ゼンマイが規定の状態まで巻かれた状態で行なわれる。そこで，この曲線を定めるに当っては，測定結果のうち，ゼンマイが規定の状態まで巻かれた状態で測定された港研-SのNo.3と，京浜事-SのNo.1を参考とした。
図-7.10に，この2つの測定結果とともに，この結果にあてはめた曲線を示す。ただし縦軸は，記録紙送りの速度にしてある。曲線は，補正を行なう際の計算の手間を小さくするため，単純な多項式をあてはめる方針で試算したが，2次曲線でも，図のように十分に近似できると判断した。この曲線の方程式は，記録器の始動時からの経過時間をt（sec），記録紙の送り速度をv（cm/sec），さらに記録紙の送りの速度が一定となった時の速度をva（cm/sec）とすれば
ただし、0≦t≦2
である。図-7.10では，Va＝1.0となっている。
(3) 補正の方法
この補正は，円孤補正のつぎに行なう。円孤補正を行なって求めた各点のＸ座標は，記録器が始動してからその点が記録された時刻までに送られた記録紙の長さを表わしている。このことをややていねいに説明すれば，円孤補正というのは，円孤書きで描かれたある点のＸ座標を，直線書きで描かれた場合のＸ座標に補正することである。
したがって，記録紙の送りの速度の変動には無関係に補正することができる。直線書きで描かれた場合の点のＸ座標は，あきらかなことだが，その点が記録された時刻までに送られた記録紙の長さを表わしている。
先に説明した立上り曲線を積分すれば，記録器が始動してからの経過時間と，その時までの記録紙の送られた長さの関係が得られる。記録紙の送られた長さが各点の円孤補正されたＸ座標であるから，これをｘ（cm）とすれば，
.png)
・・・ (7-5)
ただし，0≦t≦2
である。そこで記録紙送りの立上り補正では，まず，この関係式をtについての3次方程式と見なし，各点のＸ座標について，この方程式を解くことにより時刻tを求める。つぎに，この時刻をもとに，各点のＹ座標を補間して，��t＝0.01秒ごとのデータを求める。補間の方法は簡単のため，各データを線分で結ぶことにより行なうこととした。
補正を行なう区間は，上式でt＝2とおけばわかるように4/3va（cm）すなわち，もとの記録の始めの部分の約1.4cmである。
7.6 平滑化
(1)平滑化の目的
ERS強震計の記録では，強震計の計器特性により，SMAC-B2強震計の記録よりも，高い振動数の成分が大きな割合で含まれる。しかし，これまでに得られたERS強震計の記録を見るかぎり，50Hz以上の振動数成分の占める割合は，きわめて小さい。したがって，ERS強震計の記録の数字化の時間間隔は，0.01秒間隔として十分であると思われる。
一方，ERS強震計の記録のための数字化装置では，サンプリングの間隔を変えても，オペレータの作業量は全く変わらない。そこで，数字化装置により数字化を行なう段階では，サンプリングの間隔を装置の限界である0.1mmとする。これはERS-B強震計の記録では0.005秒，ERS-C強震計の記録では0.0025秒に相当する。このようにサンプリングの間隔を密にとっておけば，誤差の含まれる割合の大きいと思われる50Hzより高い振動数成分を分離することができる。また，時間間隔補正における補間の精度がよくなるからである。
平滑化の目的は，ERS強震計の記録を0.01秒間隔のデータにまびくに先立って，50Hz以上の振動数成分を取除くことである。
(2) 平滑化の方法
平滑化は時間領域で行なう。フィルタは，45Hzから55Hzにかけて振動数軸上で直線的に減衰するものとした。すなわち，時間領域で行なう重みつき移動平均の重み関数は，簡単な計算によりわかるように次式で与えられる。
.png)
・・・ (7-6)
ここに、ｆ0＝45(Hｚ)
ｆ1＝55(Hｚ)
ただし，平均を行なうのは，│t│≦1（秒）とした。│t│≦１ではg（t）であり，│t│＞1ではゼロとなる関数のフーリエ変換を図-7.11に示した。45Hz付近と55Hz付近の"ふくらみ"は，約0.003秒で極めて小さい。
数字化した記録の始めと終りの部分の平均は，数字化した全区間の外側をゼロと見なして行なうものとした。
図-7.11 平滑化のためのフィルタ
7.7 時間間隔補正
(1) 補正の目的
記録紙の送りの平均的な速度を求め，これをもとに，補間により0.01秒間隔のデータを得ることを目的とする。
(2) 補正の方法
まず記録紙送りの平均速度を求める。SMAC-B2強震計の記録では，タイムマークの30秒間分の長さを，ERS強震計の記録のための数字化装置で測る。記録が何枚かのコピーにわたる場合には，それぞれのコピーについて測ったのち，平均を行なう。この長さを30秒で割ることにより平均記録速度を求める。ERS-B強震計の記録では，あらかじめ精度のよいタイマーを用いて検定してある平均速度を補正に用いる。
ERS-C強震計の記録では，15秒間分のタイムマークの長さをERS強震計の記録のための数字化装置で測る。記録が15秒以上ある場合には数字化装置のために区切った区間ごとに測ったのち，平均を行なう。この長さを15秒で割ることにより平均記録速度を求める。
つぎに，この平均記録速度を用いて，データを0.01秒間隔に補間する。補間の方法は，2つのデータ間を直線で結ぶことにより行なう。
(3) 補正方法の評価
（z@）SMAC-B2強震計のタイマーの精度
この補正には，タイムマークから平均記録速度を求めている。したがって，この補正方法の精度を検討するには，タイムマークを発生するタイマーの精度を知る必要がある。
SMAC-B2強震計のタイマーの精度は，次のようにして測定した。測定すべきタイマーからの1秒ごとのパルスを，記録速度10cm/secで，オシログラフに記録した。それとともに，平均日差±0.05秒の水晶発振器つきのタイマーから1秒ごとのパルスを発生させて，同じ記録紙上に記録した。このパルス間隔を，ERS強震計のための数字化装置で測定した。京浜事-S地点の強震計タイマーの測定では，12秒間の間隔を1秒ごとに測った。この結果，水晶発振器つきタイマーの間隔は，平均100.742mm標準偏差0.161mmであった。
この標準偏差に示されるばらつきは，検定に用いたオシログラフの記録紙の送りむらや記録紙の伸縮や長さの測定における誤差に起因すると考えられる。一方，強震計のタイマーの間隔は，平均100.192mm，標準偏差0.380mmであった。
この標準偏差に示されるばらつきは，先に述べた原因の他に，タイマー自身にも起因する。タイマーは，3秒間で1回転する円板に固定された3つの接点を用いているので，その精度は円板の回転精度とともに，接点の取付け位置の精度にも依存する。
試みに，接点に対応するように1秒ごとのパルス間隔を３つめごとに取出して平均と標準偏差を求めると，平均値は，100.05mm，100.625mm，99.90mm，これらに対応する標準偏差は，0.296mm，0.192mm，0.166mmとなった。
これらの標準偏差がいずれも全体の標準偏差をかなり下まわることから見て，接点の取付位置が影響を与えていることがわかる。水晶タイマーに対し，強震計タイマーの平均の誤差は-0.5%，変動係数，すなわち，平均値に対する標準偏差の割合は，0.4%である。ただし，この変動係数には，測定に用いたオシログラフの送りむらも含まれている。送りむらの変動係数は0.2%である。
同様にして，山下変-S地点の強震計タイマーの測定を行なった。その結果は，平均値の誤差が＋0.3%，変動係数は，0.5%であった。ただし，オシログラフの変動係数は，0.2%である。
港研-Sの強震計のタイマーの測定は，26秒間の平均値だけを求めたが，その結果は，-0.6%の平均値の誤差であった。
以上3つの例からみて，SMAC-B2強震計のタイマーの誤差は±1％以下，変動係数も0.5%以下の精度であると思われる。
（zA）ERS-B強震計の平均記録速度の測定
ERS-B強震計タイマーは，電源周波数に同期する方式なので，電源周波数変動に起因する記録速度の変動は検知することができない。そこで，ERS-B強震計の記録の時間間隔補正には，あらかじめ各強震計について平均記録速度を測定しておき，この値を一率に適用することとした。
平均記録速度の測定には，SMAC-B2強震計のタイマーの測定に使用したのと同じ平均日差±0.05秒の水晶発振器つきのタイマーを使用し，1秒ごとのパルスを発生させて測定を行なった。測定はすべて現地で行なった。
（zB）ERS-C強震計のタイマーの精度
ERS-C強震計のタイマーは，水晶発振器の内蔵されたもので，強震計製作者により，一台一台検定が行なわれている。これまでのところ，0.3%の誤差が最大である。
（zC）記録紙の送りむらの実測例
ａ）測定方法
記録紙に描かれたタイムマークの間隔を測定し，その標準偏差を求めることにより，送りむらの大きさを評価する。タイムマークの間隔の測定には，ERS強震計の記録のための数字化装置を用いた。タイムマークの間隔は，１つ１つ間隔を独立に測定するのではなく，タイムマークの位置を基準点からの距離として測定し，この値から間隔を求めた。したがって1つのマークの測定誤差は，そのマークの直前直後の間隔の測定値に影響を与える。
測定の対象としては，SMAC-B2強震計の記録及びERS-C強震計の記録を用いた。ERS-B強震計の記録は，タイマーの精度が電源周波数に依存するので測定の対象としなかった。タイムマークの間隔はSMAC-B2強震計の記録の場合約10mm，ERS-C強震計の記録の場合，約4mmである。対応する時間間隔は，それぞれ，1秒，及び，0.1秒である。測定に用いた区間の長さは，SMAC-B2強震計の記録の場合，約30cm，ERS-C強震計の記録の場合約70cmとした。
このような方法により求めた標準偏差は，次のような要因から構成されるものと思われる。すなわち，
α）記録紙の送りむら
β）タイマーの精度
γ）測定におけるオペレーターの誤差
δ）測定における数字化装置の量子化の誤差（単位0.1mm）
得られた標準偏差値がβ），γ），δ）のような誤差よりも十分大きい場合には，α）の大きさがこの標準偏差によって測定されるのみならず，タイムマークの測定値を使って，送りむらを補正することができる。逆に，得られた標準偏差値が，β），γ），δ）のような誤差と同程度の大きさであれば，タイムマークの測定値を使って補正を行なうと，逆に誤差を増大させる恐れがでてくる。
ｂ）SMAC-B2強震計の記録紙の送りむら
はじめに，オペレータによる誤差の変動をチェックするため，2人のオペレータで同一の記録のタイムマーク間隔を測定した。結果は，表-7.2の上2行に示す通りである。次に，他の2つの例について求めた結果，表-7.2の下2行に示す通りであった。
表-7.2 SMAC-B2強震計の記録のタイムマークの間隔
| 記号番号 | 設置点 | 平均(mm) | 標準偏差(mm) | 標準偏差*
(sec) |
| S-908 | 衣浦-S | 10.023 | 0.109 | 0.0109 |
| S-908 | 衣浦-S | 10.020 | 0.105 | 0.0105 |
| S-569 | 大船渡船-S | 9.747 | 0.109 | 0.0109 |
| S-914 | 塩釜工場-S | 9.907 | 0.124 | 0.0124 |
＊・・・時間に換算した値
求めた標準偏差値を構成する要素のうち，β），γ），δ）の大きさは，次の通りである。
すなわち，
β）：0.05mm以下
γ）およびδ）：0.1mm程度
ここで，β）の大きさは，先にタイマーの精度の検討について説明した通りである。
得られた標準偏差値は，β），γ），δ）と同程度の大きさであることがわかる。したがって，タイムマークの間隔の読取りによる補正は適当ではない。
ｃ）ERS-C強震計の送りむら
ERS-C強震計の記録紙送りむらの測定では，測定間隔が比較的多いので，度数分布図の形で，結果を図-7.12，図-7.13に示す。オペレータによる測定結果の比較を行なえるように表わしてある。結果は，ほぼ正規分布とみてよい。表-7.3に標準偏差をまとめた。
求めた標準偏差値を構成する要素のうち，β），γ），δ）の大きさは次の通りである。すなわち，
β）：微小
γ）およびδ）：0.1程度
β）は，水晶発振器内臓のタイマーの精度であり，実用上ゼロと考えられる。
得られた標準偏差値は，β），γ），δ）よりやや大きいが，タイムマークの間隔の読取りによる補正による効果はあまり期待できない。
図-7.12 度数分布（山下変―M M-141）
図-7.13 度数分布（花咲―M M-106）
表-7.3 ERS-C強震計の記録のタイムマークの間隔
| 記号番号 | 設置点 | オペレータ | 平均(mm) | 標準偏差(mm) | 標準偏差*
(sec) |
| M-106(A区間） | 花咲-M | A
B
C
|
4.001
4.005
3.996
|
0.151
0.160
0.199
|
0.0038
0.0040
0.0050
|
| M-106(B区間） | 花咲-M | A
B
C
|
3.996
3.996
3.996
|
0.184
0.155
0.255
|
0.0046
0.0039
0.0064
|
| M-141（A区間） | 山下変-M | A
C
|
4.128
4.126
|
0.273
0.223 |
0.0066
0.0054
|
| M-141（B区間） | 山下変-M | A
C
|
4.123
4.121 |
0.240
0.221
|
0.0058
0.0054 |
（zD）補間の影響
各点を直線でつないで補間することにより，正弦波の振幅がどの程度小さくなるかについては，文献17）で述べているように，正弦波1波に対して，サンプル数が20では0.6%，10では2.5%，5では6.8%の見当である。補間は，このようにある振動数の成分の振幅を変化させるだけでなく，その振動数成分以外の振動数の成分を発生させる効果もある。特に，円孤書きの影響で，結果としてサンプリングの時間間隔が著しく長くなった部分においては，微分を行なうのに相応しくないような点が出現する場合がある。
7.8 計器特性の補正
(1) 補正の目的
強震計は，2.強震計 で説明したように，ある振動数特性を持っているので，記録された波形は強震計に入力された加速度とは異なる。そこでこの計器特性を考慮して，入力加速度を求めることを目的とする。
(2) 補正の方法
計器特性補正は，周波数領域で行なう。
すなわち，波形のフーリエスペクトルを求め，これを計器の振動数特性を考慮して補正する。補正されたスペクトルは次のフィルタリングのために，このままの形で残し，この段階では，加速度の形にはもどさない。
フーリエスペクトルを求める際には，適当な長さのゼロを補なって計算する。この長さは，計器特性補正のために用いるフィルタと，つぎに述べるフィリングのために用いるフィルタとを合わせたもののインパルス応答の長さをもとにして定める。このゼロの区間の長さはSMAC-B2強震計の記録の場合，20秒以上，ERS-B強震計の記録の場合，24秒以上，ERS-C強震計の記録の場合，12秒以上とする。このゼロの区間の長さの定め方の詳細については，8.速度波形及び変位波形の求め方 において説明する。
計器特性補正のためのフィルタを具体的に書き表わせば，つぎの通りである。
〇SMAC-B2強震計の記録の場合のフィルタAS(f)
.png)
・・・ (7-7)
ここに，fs＝1／0.14（Hz）
hs＝1.0
〇ERS強震計の記録の場合のフィルタAE(f)
.png)
・・・ (7-8)
ただし、
.png)
・・・ (7-9)
.png)
・・・ (7-10)
式（7-9），（7-10）における定数は，
〇ERS-B強震計の記録の場合
fp＝2.0（Hz）
hp≒17
fG＝100（Hz）
hG＝0.7
〇ERS-C強震計の記録の場合
fp＝3.0（Hz）
hp≒17
fG＝270（Hz）
hG＝0.7
7.9 フィルタリング
(1) フィルタリングの目的
計器特性補正の前までに行なわれる一次補正のプロセスで補正することのできなかった誤差は，数次化における波形トレースの誤差である。この誤差については，6.記録の数字化とその精度において詳細に検討を行なった。
この誤差は，加速度波形を積分して求めた速度波形や変位波形においては，著しく大きな割合を占めるようになることが多い。また，SMAC-B2強震計の記録の場合，計器特性補正を行なって求めた波形においても，誤差が微分されて著しく大きな割合をを占めるようになることが多い。このことは，周波数領域では特に低い振動数や特に高い振動数の成分において，誤差の占める割合が大きいということに対応する。
そこで，このような誤差の占める割合の大きい振動数成分を取除くことを目的として，フィルタリングを行なう。
(2) フィルタリングの方法
(z@) SMAC-B2強震計の記録のフィルタリング
(a) 高振動数成分を取除くフィルタ
１次補正を行なって求めた波形に含まれる誤差の主なものは，数字化における波形のトレースの誤差である。しかし，SMAC-B2強震計の場合，0.01秒間隔のデータを求めるための補間による誤差も，7.7.時間間隔補正において検当したように，計器特性補正を行なう場合には，無視できない場合がある。
このような誤差の含まれる割合の大きい振動数の範囲が，どの程度の振動数以上であるかは，一般的には強震計によって記録された地震波形に優勢に含まれる振動数の範囲によって，地震波形ごとに異なるであろう。したがって，6.記録の数字化とその精度において検討した例からこの境界の振動数を単純に求めることは，検討した例の数が少ないという点で，やや危険がある。
しかし，他に，この振動数を決定する情報が得られていない現状では，この例を参考とする以外に方法がない。また，SMAC-B2強震計の計器特性を考えれば，記録紙上で非常に高い振動数成分まで優勢に含まれるような記録の得られる可能性は小さいと思われる。そこで，先の検討例から，10Hz以上の振動数成分を取去ることとした。
次に10Hz以上の成分をどの程度急激に取去るかという点について検討する。6.記録の数字化とその精度において検討した例からわかるように，誤差は全振動数にわたって広がり，地震波形と似たような広がり方をしているので，誤差と地震波とを，ある振動数を境界として分離することは全くできない。また，誤差の含まれる割合の大きい振動数範囲も，一般的には，地震波形によって多少異なる。したがって，10Hz以上の成分を，10Hzを境界として完全に取去ってしまうことは好ましくない。このような取去り方では，計器特性補正と合わせて考えればわかるように，スペクトルの形は，10Hz付近で急激な変化をする恐れがある。したがって，できるだけゆるやかな取去り方をするフィルタを使うべきである。それではどの程度までゆるやかにしてもよいかという点から逆に考えてみる。言いかえれば，10Hz以上の振動数成分をどの程度の大きさにまで小さくしておけばフィルタによって抽出された範囲において，加速度波形に占める誤差の割合を十分に小さくできるのかということである。この問題の答えとしては，数字化したままの波形であれば，全体に占める誤差の割合は十分・|・v両・気い海箸・錣・辰討い襪里如し彜鐺胆�補正を行なう前の勝χにまで�0Hz以上の高振動数成分を小さくしておけば，誤差の占める割合の増大を十分におさえられると思われる。また，注意すべきことは，数字化記録波形の全長の先頭の端の部分と終わりの端の部分では，仮に，数字化した全長の外側にゼロからなる区間を補なって見ると，波形が見かけ上不連続な形となることである。この不連続性は，10Hz以上の高振動数の成分によっても保たれているので，仮に10Hz以上の高振動数成分をゼロとしてしまうと，10Hz付近の不自然なフィルタの応答に変形されてしまう。したがって，波形を，記録端の部分においても人工的にゆがめないためには，むしろ，10Hz以上の成分も，計器特性補正を行なう前に含まれていた程度には残しておくことが必要である。
以上の考察により，高振動数成分を取除くフィルタはSMAC-B2強震計の記録の場合には，次式で表わされるものとした。
.png)
・・・ (7-11)
ここに，f0＝10（Hz）
S（f）：SMAC-B2強震計の振幅特性
第2式はやや見かけがはん雑な式であるが，その意味するところは，大カッコの中味は，計器特性補正によって持ちあげられた部分を，指数関数で落として，20Hz程度以上の振動数でほぼ1にするというくらいの意味しかない。これに，計器振幅特性に相当するフィルタを合成して，計器特性補正の効果を，高い振動数成分では相殺して，結果的には高い振動数成分では，計器特性補正を行なう前の振幅の状態にもどしている。
大カッコの役割は計器特性補正を行なった部分と，結果として振幅については計器特性補正を行なわなかった部分とを，なめらかに（無限回微分可能なように）つなぐという程度のものである。
したがって，グラフを示せば十分な程度の意味しか持たないが，グラフではやや取扱いの不便な場合もあると考えて，式の形で示したものである。図-7.14に計器特性補正と合わせた形でこのフィルタを示した。
図-7.14 SMAC-B2強震計の記録の計器特性補正のためのフィルタとローパスフィルタとの合成
(b) 低振動数成分を取除くフィルタ
このフィルタについては，
8.速度波形及び変位波形の求め方 において，積分との関連で説明するが2つの異なったフィルタを使うこととした。
(zA) ERS強震計の記録のフィルタリング
(a) 高振動数成分を取除くフィルタ
ERS強震計の記録の場合高い振動数成分が計器特性補正によって増幅される割合は小さいので，計器特性補正後の波形に占める割合は一般には小さい。したがって，高振動数成分を取除くフィルタは使わないこととした。
(b) 低振動数成分を取除くフィルタ
数字化におけるトレースの低振動数の誤差は，計器特性補正の前の段階では，SMAC-B2強震計とERS強震計では，ほぼ同じような振動数軸上の分布を示す（6.記録の数字化とその精度参照）。既に述べたように，SMAC-B2強震計の記録には，このような性質の誤差が積分において増幅されるのを防ぐために，8.速度波形及び変位波形の求め方 において説明するようなフィルタが必要となる。ERS強震計の記録では，計器特性補正で既に1回積分されており，さらに2回の積分を行なって変位波形を求めることになるので，トレースの誤差は，変位波形においては3回積分されることになる。したがって，SMAC-B2強震計の記録の場合のフィルタに加えて，さらに，もう一段低振動数成分を取除くフィルタが必要である。
そこでERS強震計の記録の場合には強震計の固有振動数以下の範囲で換振器の振幅特性を持ち，それ以上の振動数範囲では1であるようなフィルタを，8.速度波形及び変位波形の求め方 において説明するフィルタと合成することとした。
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